「2024年問題」とは、時間外労働及び休日労働の規制の適用が猶予されていた業種も令和6(2024)年4月からその適用を受けることになり、これによって生じる可能性のある様々な問題のことです。
例えば、物流業界では、そこで働くトラックドライバーの時間外労働が規制されることで、運送できる荷物の絶対量が少なくなり、会社は売上が減少し、トラックドライバーは収入が減少し、離職の増加等による人材不足に陥るといった事態が懸念されています。
そもそも、労働時間は、一日あたり8時間、一週間あたり40時間が原則です。
労基法32条では、これを超えて「労働させてはならない」と規定されており、時間外労働を明確に禁止しています。
これに違反すると、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます(労基法119条1号)。
しかし、例外的に、通称、「36協定」(さぶろくきょうてい)と呼ばれる労使協定を締結し、これを行政官庁に届け出ることで、時間外労働が可能になります(労基法36条1項)。
もっとも、36協定で定められる時間外労働には、以下のような3つの上限規制があります。
(1) 限度時間
まず、36協定で定める時間外労働は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して、通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限られます(労基法36条3項)。そして、この限度時間は、一か月につき45時間、一年につき360時間です(労基法36条3項、4項)。
(2) 特別条項による許容と上限
次に、36協定では、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的にこの上限時間を超えて労働させる必要がある場合について、一年のうち6か月まで、上記(1)の限度時間を延ばすことができます。
もっとも、その場合も、一か月の時間外労働及び休日労働の時間数の上限は100時間未満、一年についての時間外労働の時間数は720時間以内が上限です(労基法36条5項)。
(3)実時間数の上限
さらに、
(a)坑内労働その他の健康上特に有害な業務についての時間外労働は一日につき2時間まで、
(b)1か月の時間外労働と休日労働の合計は100時間未満、
(c)対象期間(1年)の初日から1か月ごとに区分した各期間のそれぞれ(つまり、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均)において、時間外労働及び休日労働の合計が1か月当たり80時間以下、
でなければなりません(労基法36条6項)。
このような上限規制は、既に、大企業では平成31年4月から、中小企業では令和2年4月から施行されています。
もっとも、①建設業、②自動車運転の業務、③医師、④鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業については、上限規制の適用が5年間猶予されていました。
ところが、5年間が経過し、令和6(2024)年4月から、これらの業種についても、
いよいよ上限規制が課せられることになります。
建設事業では、災害時における復旧・復興の事業を除き、上限規制が全て適用されます。
自動車運転の業務では、36協定の特別条項の1年間の上限は、720時間ではなく960時間となります。
また、限度時間を延ばすことができるのは年6か月までとする制限は適用されません。
さらに、上記「第2」の「3」の「(3)」の(b)と(c)も適用されません。
医師は、36協定の特別条項の1年間の上限は、720時間ではなく960時間となります。
また、都道府県の指定を受けた特定労務管理対象機関(特定地域医療提供機関、連携型特定地域医療提供機関、技能向上集中研修機関、特定高度技能研修機関)は、36協定の特別条項の1年間の上限は1860時間となります。
月の上限を超えて勤務する医師に対しては、医療機関が面接指導を行い、必要に応じて、労働時間の短縮、宿直の回数の減少等、必要な措置を講じる必要があります。
また、医師の健康確保を確実なものとするため、
①連続勤務時間を28時間までに制限する
②勤務間インターバル(休息)は9時間確保する
③代償休息を付与する(休息中に、やむを得ない理由により労働に従事した場合は、当該労働時間に相当する時間の代償休息を事後的に付与する)
といった規制も導入されました。
上限規制が全て適用されます。
今般の法改正によって、時間外労働又は休日労働を行わせる場合、新しい様式での36協定届(様式第9号)を労働基準監督署に届け出る必要があります。
厚生労働省から書式や書き方が公表されていますので、参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
36協定に定めた内容を上限規制は、1か月及び1年単位で上限が設けられていますので、日々の時間外労働の累計時間を把握し、それが36協定で定めた1か月及び1年間の時間外労働の上限を超えないように注意する必要があります。
労働時間は、会社の指揮命令の下で労働者が業務に従事している時間です。始業時刻前であっても、ミーティングや着替えや引継ぎを義務として行わせていた場合は労働時間としてカウントされます。また、休憩時間と扱っていても、実際は呼ばれたら仕事をせざるを得ない状態だった場合も労働時間としてカウントされますので注意が必要です。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
では、使用者には労働時間を適正に把握する責務があると明記されています。適正に把握しているというのは、労働者ごとに、一日ごとの始業時刻、終業時刻を確認し、記録することです。確認・記録の方法は、使用者が自ら現認する方法か、又はタイムカード等の客観的記録を基礎として確認する方法が原則的な方法と示されており、労働者の自己申告による方法はあくまで例外として位置づけられています。
また、平成30年に成立した働き方改革関連法により、労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点からも、使用者は労働時間の状況を労働安全衛生規則で定める方法により把握しなければならないことになりました(労安衛法66条の8の3)。これにより、高度プロフェッショナル制度の適用者(労基法41条の2第1項)以外の全ての労働者の労働時間の状況を把握しなければならないことになりました。つまり、管理監督者、裁量労働制、事業場外のみなし労働時間制の者であっても、労働時間の状況を把握する必要があるということです。
以 上