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相続法改正

2023年6月30日 / 法律コラム

令和5年度は、相続制度に関する重要な改正が施行されました。

 

第1 特別受益・寄与分の主張期限(令和5年4月1日~)

遺産分割協議をいつまでに成立させなければならないという制限はありません。

従前は、特別受益や寄与分の主張についても、いつまでに主張しなければならないという期限は定められていませんでした。

しかし、これでは、「遺産分割を早く行おう」というインセンティブが働かず、相続となる土地の名義変更が長期間行われないなどの事態が生じ、所有者不明の土地が増加するなどの弊害が生じてしまいました。

そこで、今般の改正では、早期の遺産分割請求を促すため、相続開始から10年が経過した後は、原則として特別受益や寄与分の主張ができなくなることになりました(改正後民法904条の3)。

これにより、相続開始から10年経過した後は、当事者は特別受益や寄与分の主張をすることはできず、法定相続分に従って財産を相続することになります。

つまり、特別受益や寄与分を加味した公平な遺産分割協議の成立を目指すのであれば、遺産分割協議は10年以内に行っておく必要があるということになります。

 

第2 遺産共有持分が含まれる共有物の分割手続(令和5年4月1日~)

これまでは、相続により共有となった財産の分割方法について、遺産分割(民法906条以下)によるのか、共有物分割(民法256条以下)によるのかが明文化されていませんでしたが、改正後の民法258条の2は、これまでの判例法理に従い、原則として、遺産分割の手続によらなければならないと定められました。

これは、家庭裁判所で行う遺産分割の手続により、遺産全体を対象にして、事案の性質に応じた柔軟な解決を志向することを可能にするためです。

もっとも、例外的に、共有者が亡くなったなどにより共有物の持分が遺産に属することになり、遺産共有と物権共有が混在する場合、相続開始時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分についても民法256条の規定による共有物分割をすることができることとされました(改正後民法258条の2第2項)。

この場合、原則に従えば、遺産共有になった相続人は、相続人同士の遺産分割を行い、その後に改めて物権共有にある者との共有物分割による共有の解消を行うという二段階の手続を踏むべきということになりますが、さすがにこれは迂遠です。各相続人に遺産分割の機会が保障されるのであれば、一つの手続ですべての共有関係を解消できる方が、手続負担の軽減のためにも、所有者の早期確定の観点からも有意義だからです。

 

第3 相続財産の管理(令和5年4月1日~)

相続人が相続財産の管理ができない場合、家庭裁判所は相続財産の保存に必要な処分を命ずることができますが、改正前の民法では、

① 相続人が相続の承認又は放棄をするまで(改正前民法918条2項)

② 限定承認がされた後(改正前民法926条2項)

③ 相続の放棄後次順位者が相続財産の管理を始めるまで(改正前民法940条2項)

の各段階に限られていました。

しかし、これでは相続の承認後に遺産分割協議が進まない場合や、相続の承認後に遺産共有状態で共同相続人が相続財産の管理をしない場合などに対応できず、適切に相続財産の管理をすることができませんでした。

そこで、今般の民法では、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができるとしました(改正後民法897条の2)。

「いつでも」とあることから、裁判所は相続の承認・放棄の前後を問わず選任や処分を命ずることができます。

もっとも、

① 相続人が一人である場合においてその相続人が単純承認をしたとき

② 相続人が数人ある場合において遺産の全部が分割されたとき

③ 新設された相続財産の清算人が選任されているとき(後述「第4」)

は、相続財産の管理人は選任できません。

これらの場合、相続財産を管理すべき者が明白で、相続財産の管理に問題がないからです。

 

第4 相続人が不存在の場合等における公告手続(令和5年4月1日~)

戸籍上法定相続人となる者が一人もいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合など、相続人があることが明らかでないときは、相続人の捜索と相続財産の清算、帰属先の決定を行う必要があります。

このとき、権利義務の主体となる相続財産法人が法律上当然に発生します(951条)。

そして、家庭裁判所は相続財産の清算手続をする者を選任し、相続人を捜索する目的で公告をします。

改正前の民法では、清算手続をする者は「相続財産の管理人」と呼ばれ、前述の「第3」で解説した相続財産の管理人と明確に区別されていませんでした。

今般の民法では、清算手続をする者の名称を「相続財産の清算人」に改め、清算を目的とする制度に合致したものとしました(改正後民法952条1項)、

つまり、相続財産の保存を目的とするときには相続財産の管理人が選任され、清算を目的とするときには相続財産の清算人が選任されることで役割が明確に区別化されたことになります。

つぎに、家庭裁判所が行う公告について、改正前の民法では、

(a) 相続財産管理人の選任の公告を2か月間(改正前民法952条2項)

(b) 相続債権者らに対する請求申出を求める公告を2か月間(改正前民法957条1項)

(c) 相続人捜索の公告を6か月間(改正前民法958条)

としていました。

しかし、これでは手続が煩雑で、長期間、権利関係が確定せず、相続財産を保存する費用も膨大になってしまいます。

そこで、改正民法では、公告の方法を簡略化し、権利関係の早期確定を目指しました。

すなわち、

(1) 家庭裁判所による公告は、①「相続財産清算人の選任」と③「相続権の主張」を同じタイミングで公告し、相続権を主張できる期間は、6か月を下回ることができないこととしました(改正後民法952条2項)。

(2) 相続財産清算人は、(1)の公告があった場合、全ての相続債権者及び受遺者に対し請求申出の公告をする必要があり、請求申出の期間は2か月以上で、かつ、(1)の相続権主張の期間内に満了するものでなければならないとしました(改正後民法957条1項)。

つまり、改正前の(a)と(c)の公告を同時に行い、公告の回数を3回から2回へ変更した上で、相続人不存在の確定も最短10か月から6か月に短縮されました。

以 上