お知らせNEWS

HOME お知らせ 休業手当の要否

休業手当の要否

2021年8月10日 / 法律コラム

1 新型コロナウイルス感染症の拡大

令和3年8月1日,東京都内での新型コロナウイルス感染症の7月31日付での感染者数が4058人になったとの報道がありました。7月31日までの7日間平均は,前の週の2倍以上となる217%とのことで,感染拡大のスピードがあがっています。

感染が拡大し,従業員を休業させる場面も増えると考えられることから,本稿では,新型コロナウイルス感染症と休業手当の支払義務(労基法26条)の関係を整理したいと思います。

2 休業手当(労基法26条)とは

休業手当とは,使用者の責めに帰すべき事由によって休業する場合,使用者は,労働者に対して,その休業期間中,平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならないというものです(労基法26条)。

この趣旨は,労働者の最低生活を保障することにあります。つまり,生活の糧である賃金が得られないことになると労働者は生活に困ることになるため,そのような事態を防ぐべく,「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業する場合,平均賃金の60%の休業手当を支払わなければならないとしているものです。

3 休業手当の支払義務に違反した場合

休業手当を支払わなければならないにもかかわらずこれを怠った場合,裁判所による付加金の支払命令の対象となります(労基法114条)。これは,労働者の請求により,未払分のほか,未払分と同一額の付加金の支払が命じられる可能性があるというものです。

また,30万円以下の罰金という刑事罰が科せられる可能性もあります(労基法120条1号)。

4 休業手当を支払う必要がある場合

休業手当を支払う必要があるのは,「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業する場合です。

この使用者の帰責性は,使用者の故意,過失又はこれと同視すべき事由よりも広く,使用者側に起因する経営上・管理上の障害を含むとされています(最判昭和62年7月17日民集41巻5号1283頁)。

これは,使用者の故意,過失又はこれと同視すべき事由による休業の場合,民法536条2項により,使用者には100%の賃金支払義務が認められますが,その程度の帰責性がなくても,休業の原因が使用者の支配領域に近いから発生しているというものであれば,平均賃金の60%の支払義務を生じさせて,労働者の最低生活を保障しようという考え方に由来するものです。

使用者側に起因する経営上・管理上の障害には,一般的には,機械の検査,原料の不足,流通機構の不円滑による資材入手難,監督官庁の勧告による操業停止,親会社の経営難のための資金・資材の獲得困難などが含まれるとされています(昭和23年6月11日基収1998号など)。

賃金支払と休業手当の関係を整理すると,以下のようになります。

休業となった原因につき,

① 使用者に故意・過失がある場合 →  賃金支払が必要

② 使用者に故意・過失はないが,使用者側の事情に起因する場合 → 賃金支払は不要だが,休業手当の支払が必要

③ 使用者の故意・過失はなく,使用者側に起因するものでもない場合 → 賃金支払も休業手当の支払も不要

5 新型コロナウイルス感染症関連の各場合

新型コロナウイルス感染症に関連して休業する各場合について,休業手当の要否を検討すると,以下のとおりとなります。

(1) 労働者が感染した場合

労働者が新型コロナウイルス感染症に感染した場合,都道府県知事より就業制限等の措置が課せられ,これにより労働者が休業する場合,上記③にあたるため,賃金支払も休業手当の支払も不要となります。

(2) 感染疑いや濃厚接触などの事情で労働者自ら休業する場合

労働者が,体調不良であるとか,濃厚接触者と判定されたなどの事情で,自ら自主的に休むという場合,上記③にあたるので,賃金支払も休業手当の支払も不要となります。これは,通常の病気欠勤と同じ考え方となります。

労働者から体調不良等の事情があるのだが,休んだ方がよいかという趣旨の相談を受けた場合,事業者としては,まずは医療機関の受診を勧めるのがよいと思います。

厚生労働省からは,かかりつけ医がいる場合はかかりつけ医にまずは電話で相談し,かかりつけ医がいない場合は,各都道府県における相談・医療体制に関する情報や受診・相談センターの連絡先が公表されていて,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html

同センターに電話連絡するよう推奨されています。

この「受診・相談センター」での相談の結果,新型コロナウイルスの陽性判定ということになれば,上記(1)の対応となります。

他方,「受診・相談センター」での相談の結果,職務の継続が可能である労働者について,使用者の自主的判断で休業させるというときには,上記①又は②に当たり,賃金又は休業手当の支払が必要になる可能性があります。

(3) 営業自粛要請に従って休業する場合

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく,協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し,これにより労働者を休業させる場合,上記②にあたるか,それとも上記③にあたるかは,ケースバイケースとなります。

使用者側の事情に起因するものではない不可抗力による休業だと言うためには,(a)その原因が事業の外部より発生した事故であること,(b)事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること,のいずれも満たす必要があると考えられています。

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく要請に従うという場合,(a)の外部起因性は満たすことになります。

他方,(b)の防止不可能性を満たすためには,使用者として,休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは,例えば,

・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において,これを十分に検討しているか

・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか

といった事情から判断されます。

そこで,事業内容,形態,規模,人員構成などを総合的に考慮する必要があります。

 

6 厚生労働省による「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

厚生労働省より,「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」のページが作成され,随時更新されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q7-8

最新の令和3年7月28日版では,陽性者が自宅(ホテル)において療養した場合に医師からの証明がなくても休業補償給付の請求ができるかという質問に対する回答が追加されています。

以 上